『法華経』に学ぶ
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地位も名誉もある気品に満ちた人々が侍り、長者に敬意を表しています。その身は数多くの宝石で飾られ、付き人が払ほっ子す(動物の尻尾で作られたハエ払い)をもって左右に立っています。頭上には、宝石をちりばめた天蓋があり、その天蓋には高価な垂れ飾りが施されています。また床には香水を注ぎ、さらには、美しくて見事な花を散りばめ、金銀財宝などの取引をしています。男は、あまりにも立派なそのようすを見て恐れおののき、ここに来たことを後悔し、そしてつぎのように思ったのです。 『この人は王様なのか、それとも王様に匹敵する人だろうか。ともかく、自分のような人間が雇われて物を得られるようなところではない。こんなところよりも、貧しい人が暮らす地方で働くほうが、衣服も食べ物も手に入れやすいに違いない。このような場違いなところに長居していれば、そのうちに捕らえられて強制的に働かされるに違いない。』です。そのようすをみていた父親は、椅子に座りながらも一目でそれが自分の息子である、とわかりました。そして大いに喜び『私に、財産を譲る息子が突如としてあらわれ      た。私は息子のことを一時たりとも忘れたことはなく、案じ続けてきたけれども見つけることはできなかった。それがどうしたことか、息子が自ら私の前にやってきたではないか。もうこれで憂慮することはない、私の願いがかなったのだから。私は年をとったとはいうものの、まだまだ息子のことが心配でならない。』そのように思いました。そこで父親は側近の召使いに、急いで男を連れ戻すように命じたのです。召使いは足早に後を追い、その男を捕捉しました。捕らえられた男は大変驚き 『何をするんですか。私は何も悪いことはしていません。なぜ捕らえられるのですか。』ですから男は、慌ててその場を立ち去ったの-94-

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