『法華経』に学ぶ
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と喚わめき叫びます。召使いはそんな男を無理矢理に屋敷まで連れて戻りました。男は恐れおののき、あまりの恐怖に失神し倒れこんでしまったのです。父親はその様子を見て召使いに 『この男を無理に連れてきてはならない。』そう言うと、冷たい水を顔にかけ目を覚まさせ、続けて召使いに 『この男と語らってはなりません。』と言ったのです。なぜ父親はそのように命じたのでしょうか。それは、現況の息子は、あまりにも品性下劣で卑屈だったのです。そして父親との身分の差に、気後れしていることを知ったからなのです。ですから、自分の息子と知ってはいましたが方便を使って、男にはもちろんのこと周囲の人たちにも、この男が自分の息子であることを告げることはありませんでした。 さて、召使いは父親から言われたとおりに、男に向かって言いました。 『お前を解放してやるから、好きなところへ行けばいい。』男は喜んで地面から起き上がり、貧しい人々が暮らす地域へと足を運んで、再び衣服や食べ物を探し求めるのでした。そこで長者である父親は、その子供を自分のもとへ誘い引きよせるために、一計を案じました。顔の痩せ細った貧相で弱々しい二人の召使いに、お前たちは男のところへ行って『いい働き場所があるぞ、二倍の賃金がもらえるぞ』と誘ってきなさい。もし男が承知したならば、この屋敷で働かせなさい。そして、どんな仕事なのか尋ねられたならば『汚物を取り除く仕事だ、俺たちと一緒に働こう』と言いなさい、と命じたのです。そうして生活に窮した男は、長者である父親が遣わした二人と一緒に、屋敷にて汚物の掃除をすることとなりました。-95-     

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