『法華経』に学ぶ
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服用させるために、良医である父親は「わたしは年老いていますから、間もなくこの世を去ります。ここに薬を置いておくから必ず服用しなさい。この薬で病が治るのか、などと疑ってはいけません」と言い残し再び他国に出かけました。すなわち釈尊が八十歳で入滅されたことを意味します。  000000000000000000000000良医は子供たちに「何としても薬を服させたい」と一計を案じ、出先から使者を遣わし「あなた達の父親は、旅先でお亡くなりになられました」と告げさせたのです。驚愕の報に接した子供たちは、大いに憂い悩み「父がいて下さったならば、私たちを慈愛の心で救い、そして護って下さったであろう。しかしながら、私たちを遺して遠く他国にて亡くなられてしまった」と悲しんでいました。すると、正気を失い尋常ではない精神状態であったのが、いつしか正常にもどり「この薬は、色も香りも味もすべてにおいて最高の素晴らしい薬だ」ということが自然と分かったのです。そして、父親の言葉に従い薬を服用したところ、病はたちどころに癒えました。父親は、子供たちが薬を服用し全快したという知らせを聞いて、家に帰ってきました。そして子供たちと再会したのです。この「良医治子」の喩えは、仏の間断なき教化を喩えた物語です。すなわち、愚鈍な凡夫を導くためには、方便として入滅を示されること、そして入滅を示された仏は、使者を遣わされて衆生を導かれることが明かされました。この使者こそが『涌出品』で登場した菩薩たちなのです。この後、釈尊は「自我得仏来」と詩句に託し重ねて、仏の寿命は永遠であり間断なく教化を続けられていることや、衆生を導くためには方便として入滅の姿を示されること、そして、娑婆世界は『法華経』が説かれる霊山浄土であること、さらには、仏舎利への信仰などを説かれました。-152-

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