『法華経』に学ぶ
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になります。現況、記別を受けたのは舎利弗一人ですから、声聞衆の数だけでも一万九千九百九十九人の仏弟子が、未だ記別を受けられずにいることになります。そこで、いま記別を受けたばかりの舎利弗は「私はもはや何の疑問もございません。しかしながら他の弟子たちは、前代未聞の教えを拝聴し大いに疑問を生じております。ですから釈尊よ、何卒お願い申し上げます。どうか続けて説法くださり、ここに集う出家僧や尼僧、そして男女の在家の修行者が抱く疑惑を解放してください。」と説法の要請をいたしました。釈尊の誓願は「生きとし生けるすべてを自分と同じ境界に導き入れること、仏道に導き入れる」ことです。そこで釈尊は、舎利弗の説法要請を即座にお聞き入れになられ「舎利弗よ、私はあなたに明かしたことを、譬喩によって明らかにしましょう。そうすれば、智慧のある仏弟子たちは喩え話によって理解することができるでしょう。」とお答えになられました。つまり、疑惑を抱く仏弟子たちを覚醒させ、仏道に導き入れるために先の『方便品』の内容を喩え話に託して説法くださるというのです。つまりそれが『譬喩品』の後半に展開される「三  とに託して喩え「浅きに寄せて深き内容を教える」車火宅」の喩えであり、この章が『譬喩品』と称せられる由縁です。ここから舞台は、智慧の優れた上級者向けの説法であった「法説周」から、中級者へ向けての説法「譬喩説周(譬説周)」へと展開していきます。「譬喩」とは、仏教の真理や教理などを理解しやすいように、日常生活の身近なこということです。 さて『法華経』にはこの「三車火宅」の喩えをはじめとして、七つの喩え話が説かれています。これを古来より「法ほっ華け七しち喩ゆ」と称していますが、『法華経』は全二十八章ですから、その四分の一にあたる七章に喩えが説かれていることになります。-74-

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