『法華経』に学ぶ
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 「突然屋敷の周りから火が起こり、火災が発生しました。火は瞬く間に燃え広がり、屋敷を覆いすべて焼きつくす勢いです。この屋敷の中には、長者の子供たちが十人、二十人から三十人もいます。父である長者は、屋敷のいたるところから火が起こるのを見て大いに驚き、また恐れて、つぎのように思いました。 『私は無事に火に包まれ燃えさかる家(火宅)の門から出ることができるけれども、子供たちは家の中にいて、嬉々として遊び戯れるばかりで、火事になったことを知らない。知らないが故に、驚いてもいない様子だし、恐れてもいない。燃えさかる炎がその身に迫ってきて、身体を焼き尽くそうとしていることをわかっていない。苦痛にさいなまれているにもかかわらず、子供たちはそれに気づいていないので、外に避難しようとする意志がまったくないではないか』この広大な屋敷には、一つの門しかありません。そして、その門は大層狭くて小さいのです。子供たちは幼いので、何もわかっていませんから遊びに夢中になっていて、このままでは当然焼け死んでしまいます。長者は、子供たちに叫びました。『子供たちよ、   早くこの家を出なさい』長者である父親は、子供たちのことを心配し憐れんで、優しい言葉で『家を出なさい』と教え諭すのですが、子供たちは遊びに夢中でまるで聞こうとしません。子供たちは、火が何であるのか、家とは何か、失うものは何か、ということすら理解できていないのです。ただただ東に西に走りまわり戯れて、心配する父親の顔をみているだけです。 そこで長者は考えました。『この屋敷はすでに大譬喩品第三⑥-76-

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