『法華経』に学ぶ
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火に覆われている、今すぐにでもこの屋敷から離れなければ、私はもちろん子供たちも焼け死んでしまうだろう。私は方便(巧みな手立て)を使って子供たちをこの災難から救ってやらなければならない』長者は、子供たちが欲しがっている玩具(おもちゃ)があることを知っていました。さらには珍しいものを与えてやれば、必ず子供たちはそれに心を奪われ火宅から出てくるだろう、と考えたのです。そして、 『子供たちよ、お前たちが大好きなおもちゃをあげよう。これは非常に貴重なもので、なかなか手に入らないものだよ。いま手に入れないと、あとできっと後悔することになるよ。さあ、羊が牽く車(羊車)、鹿が牽く車(鹿車)、牛が牽く車(牛車)の珍しい三つの車が、いま門の外に用意してあるから好きなものを選んで遊びなさい。さあ早く火事になっている家(火宅)から出なさい。お前たちが欲しいと思うものをすべてあげよう』と言いました。父親のことばを聞いた子供たちは、好みのおもちゃを手に入れようと、先を競い争って走り出し、燃えさかる家から出てきました。長者は、子供たちが無事に火宅から出てきて露地に座り、だれ一人として怪我をしていない姿をみて、大いに安心し、また大いに喜びました。すると、子供たちは父親に向かって言いました。『お父さん、先ほど私たちに下さると言った羊が牽く車、鹿が牽く車、牛が牽く車をどうぞ下さい』ところが長者は、子供たちが要求した羊車、鹿車、牛車ではなく、みんなに同じ車を与えたのです。その車は「大白牛車」といい、立派な体躯をした何ともすばらしい、威風堂々とした白い大きな牛が牽く車です。車は車高が高くて見事な宝飾が施され、ほかにもさまざまに立派で高価な飾り物がなされていました。さらに、周りには世話をする人たちが多く侍っているのです。このような-77-    

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